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数字と数字の間の相関関係は、もちろん、高い確率で何らかの因果関係がその背後にあることを予想させます。ただ、断言はできない。全くの偶然である可能性さえ、少しは残っている。したがって、相関関係は「ここが怪しいぞ」という印でしかない。
では、因果関係自体はどうやって発見するのでしょうか? 実は、因果関係を統計数字だけから直接発見する方法はありません。因果関係はわれわれが考えて、推測するしかないのです。相関関係の背後にどのようなメカニズムが働いているのかを考える、それが普通の意味での科学的な理論です。
強調は原文ママです。
ちなみに、クリティカルシンキングの議論のテクニックの一つとして「誤った二分法」(false dichotomy)を避ける、というものがある。誤った二分法とは、複雑な状況をAかBかというかたちで単純化して、AではないからBだ、と結論する過ちである。人間をすべて敵と味方に二分して、「お前は味方ではないから敵だ」というような判断をするのはこれにあたる。こういう過ちについて知っておくと、相手の議論につい説得されそうになったときに「まてよ」といって考えなおすのに役に立つ。
次に第二段階の白書について、犯罪状況を悪く見せる操作がおこなわれているかどうか見ておこう。犯罪白書、警察白書、いずれも統計数値に妙な操作を加えることはない。単純な意味でウソはない。しかし、全体としてウソの印象を与えるおそれがある記述に満ちている。細かい個所を指摘するまでもなく、創刊以降、一貫して、犯罪情勢の悪化に懸念を示す記述ばかりが目に付く。戦後の混乱期を抜けた後、犯罪情勢は大幅に改善されたが、その間もずっと、犯罪は増加しているかのようなトーンで書かれている。むろん、数値を偽っていないので、数値を解釈すれば勘違いを避けられるが、これは専門家が大きな努力を割いた場合に限られる。最近めだった例をあげれば、来日外国人犯罪に対する懸念である。実は、来日外国人を除く、その他の外国人犯罪、つまり、いわゆる在日○○人の検挙人員は激減、ここ二十年で約半減している。増加している部分だけを取り上げ、外国人犯罪全体が増加しているという誤った印象を与えている。窃盗手口、凶悪犯の手口についても、増加したものを取り上げては懸念を表明し、減少しているものにはほとんど触れていない。
懸念材料だけを取り上げる理由は、やはり予算請求が、これまでに執行された予算の効果測定はしないで、新規増加分のみについて検討されることであろう。おそらく、余程の専門家でさえ、年報や警察庁統計の数値を拾って自分でグラフを作ることは、ほとんどない。財務省側の担当者が勉強するとしても白書しかないであろう。そのことを見越しての記述であると考えられる。
このように、白書には、正しい犯罪状況が的確に描かれておらず、とりわけ全体像を見えなくしており、問題であると言わざるをえない。しかしながら、これをもって陰謀説を唱えるのは、飛躍しすぎである。実は、犯罪白書については、私自身も、法務省内における、そのあり方についての研究会に出席している。私も含めて学者サイドからは、予算効果についてわかるように、そもそも法務省の予算についても資料を出すべきだ、といった要望が出されている。それらの意見が反映されないのは、結局、予算編成のやり方自体を根本的に改めるほうが先であるということにつきるように思われる。警察白書とて、事情は同じであろう。